8

『ラテックス-フルーツ症候群』ってどんな病気?

[要旨]要旨
1.ラテックス-フルーツ症候群とは
2.アレルゲンの交差反応性
3.ラテックス-フルーツ症候群の臨床症状
4.ラテックス-フルーツ症候群の診断・指導

1.ラテックス-フルーツ症候群とは

ラテックスアレルギーの患者の30~50%1)が、種々の新鮮な果物(表8-1)やその加工品を摂取した際に、口腔アレルギー症状、喘鳴、蕁麻疹やアナフィラキシーなどの即時型アレルギー反応を経験することがある。これは「ラテックス-フルーツ症候群」と呼ばれる現象である2)。この病態生理として、果物や野菜に含まれるアレルゲンとラテックスアレルゲンとの間のアミノ酸配列の類似性(図8-1)に起因するIgEの交差反応性による機序が考えられている。特に交差リスクの高い食品(ハイリスク群)としてアボカド、キウイフルーツ、バナナ、クリの4品目が知られている。

表8 - 1  これまでラテックス-フルーツ症候群として報告された主な食品
表8 - 1  これまでラテックス-フルーツ症候群として報告された主な食品
図8-1 ラテックスアレルゲンコンポーネントと交差反応を起こし得るアレルゲン
図8-1 ラテックスアレルゲンコンポーネントと交差反応を起こし得るアレルゲン

2.アレルゲンの交差反応性

皮膚、気道を経て侵入したラテックスアレルゲンに生体が感作されると、ラテックス特異的IgE抗体がB細胞から産生される。ラテックスアレルゲンが植物由来タンパク質であることから、果物や野菜に含まれるタンパク質がラテックスアレルゲンと類似構造を有する場合にIgEが交差反応を起こすことがある。この交差反応の代表的な原因タンパク質(コンポーネント)としてヘベイン(Hev b 6.02)が知られている(第3章参照)。

アボカド、バナナ、クリに含まれるクラス1キチナーゼというタンパク質はラテックスヘベインとアミノ酸配列が高率に類似しており、ラテックス患者がこれらタンパク質を経口的に体内に取り込んだ際に交差反応性を来す可能性がある。

3.ラテックス-フルーツ症候群の臨床症状

ラテックス-フルーツ症候群の臨床症状は多彩である。口腔アレルギー症候群(食品摂取後の口腔内違和感やピリピリ感)のように口腔局所に限局する軽度のものから、全身性蕁麻疹やアナフィラキシーショックなどのように重篤な全身症状に至るものまである。

ラテックス-フルーツ症候群の患者には、天然ゴム製品の接触回避指導に限らず、症状を引き起こした食品およびその食品を含有する加工食品の除去を指導する。

4.ラテックス-フルーツ症候群の診断・指導

1)診断と管理のポイント

ラテックス-フルーツ症候群の診断・管理においては、問診が最も重要である。

①過去にラテックス関連食品に明らかなアレルギーの既往歴があれば検査は必ずしも必要ではなく、その食品は加工品を含めて除去する。ただし、症状が口腔のみに限局する食品は加熱すると食べられる場合がある。

②ラテックス関連食品で、既往歴のない食品に対する検査は、その結果によって本来はする必要のない除去・回避をもたらし得るため、慎重に感作状況を評価する。

③抽出アレルゲンや新鮮な食品での皮膚プリックテストや血中IgE抗体検査、食物経口負荷試験は、交差反応の可能性を調べる必要性がある場合に実施する。

④スクリーニング的に行った血液検査や皮膚テストが陽性であっても、現在食べていて誘発症状がない食品の場合は、ハイリスクグループを除き除去は不要である。

2)検査

(1)皮膚テスト

ラテックス-フルーツ症候群の診断に用いる皮膚テストとしては、prick by prick testが有用である(第7章参照)。まず、新鮮な食品にバイファケイテッドニードル®、プリックランセットを直接刺して、直後に被験者の前腕屈側の皮膚に穿刺する。結果は、ラテックスアレルギーの診断におけるプリックテストの場合と同様に、陽性・陰性コントロールの結果と比較することにより判定する3)

皮膚テストは稀に局所の強い反応やアナフィラキシーを誘発することもあるため、経験を積んだスタッフによって行われるべきである。特に、問診で重篤な全身症状を来した症例では、血液検査を利用したほうが安全である。

(2)血液検査

血液検査は安全性が高く、抗ヒスタミン薬などの薬剤を使用中でも検査が可能であり、また、多数のアレルゲンに対する反応性を同時に調べられるなどの利点を有する。しかし、測定できる食品が限られていることや、偽陽性や偽陰性の結果が出ることがあるため、判定には注意が必要である。ラテックス粗抗原に加え、コンポーネント(Hev b 6.02)特異的IgE抗体の測定により、より精度の高い診断が可能となった。

(3)食物経口負荷試験

問診や前述の検査から疑わしい食品を数回に分けて漸増しながら食べさせて判定する方法は最も確実な診断方法であるが、アナフィラキシーショックのような強い反応が誘発される可能性があり、専門医療機関で十分な経験を有した医療スタッフにより、緊急対応が可能な体制を整備して行うことが望ましい。

また、口腔アレルギー症候群を呈する症例の場合は、疑わしい果物や野菜の切片を被験者の舌下に接触させ、局所のアレルギー症状が誘発されるかどうかを確かめる舌下食物誘発試験が有用である。

参考文献
1) Wagner S, Breiteneder H. The latex-fruit syndrome. Biochem Soc Trans. 2002;30:935-40.
2) Isola S, Ricciardi L, Saitta S, et al. Latex allergy and fruit cross-reaction in subjects who are nonatopic. Allergy Asthma Proc. 2003;24:193-7.
3) Dreborg S. Diagnosis of food allergy:tests in vivo and in vitro. Pediatr Allergy Immunol. 2001;12 Suppl 14:24-30.