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ラテックスアレルギーはどのように
研究されてきたの?

[要旨]要旨
1.ラテックスアレルギー研究の歴史について
2.ガイドライン作成の背景と今回の改訂について

1.ラテックスアレルギー研究の歴史について

人類が天然ゴムを利用しはじめたのは紀元前にさかのぼる。天然ゴムは、その素材の特徴として柔らかい、弾力性がある、加工のしやすさがあり、手袋、玩具、家具、靴、安全用具などの日用品から医療用の手袋、カテーテルをはじめ幅広く使用されている。

天然ゴムラテックスは、パラゴムの木という植物から採取される樹液であり、多くのタンパク質を含有しており、人の皮膚や粘膜との接触が多くなることで感作が起こり、ラテックスアレルギーを発症するに至った。1979年に初めて明らかに天然ゴム製手袋による即時型反応と考えられる1例が報告された。その後、1980年代に入ってフィンランドのTurjanmaaらが看護師のアナフィラキシー症例とともに、病院勤務者の有症率が2.9%と高いことを報告した。米国でも二分脊椎症などの頻回手術経験者のアナフィラキシー症例の報告があり、また、ラテックスと一部の果物のアレルゲンが交差反応を示すことがわかり、ラテックス-フルーツ症候群が高頻度で起こることが明らかにされた。米国の食品医薬品局(FDA) は、1,000例以上のラテックスによるアナフィラキシー症例の報告と15例のアナフィラキシーショックによる死亡例の報告を受け、FDAと米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI/WAC)が協力して医療用ラテックス製品の品質管理と表示の法律を制定した。

こうした背景には、医療分野におけるHIVなどの感染管理が厳しくなってきたことによる天然ゴム製手袋の使用頻度と使用量の急激な増加が大きく関わっていると分析されている。
欧米では、患者数の急激な増加により十分な注意喚起がなされたこと、医療用手袋の品質管理の徹底や改良がなされたことなどにより、2000年以降はアナフィラキシーの報告は減少していると考えられている。

2.ガイドライン作成の背景と今回の改訂について

日本国内では、急激な患者数の増加はなかったものの、アナフィラキシー症例の報告が散見されたことから、国内でのラテックスアレルギーの研究と対応を考える研究会として、1996年に「日本ラテックスアレルギー研究会」、1998年に「ラテックスアレルギーフォーラム」が設立され、症例報告を推進し、対策を講じるとともに、ガイドライン作成を行ってきた。国内でも医療用ラテックス製品の表示に関する指針が1999年に制定され、医療分野においては大きく進歩した。

『ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン』は、2006年に初版が作成され、2009年に第2版、2013年に第3版、今回の2018年版が第4版になる。これまで本ガイドラインでは、ラテックスアレルギーの病態、症状、診断と検査、発症予防とラテックスアレルギー患者への対応方法について、できる限り科学的根拠に基づいて記載してきた。第3版では、手袋に起因するもう一つのアレルギーである「化学物質による遅発型アレルギーである接触皮膚炎」についても追加した。これは、天然ゴム製品の製造過程で用いられる加硫促進剤が主要なアレルゲンであり、非ラテックス製手袋でも起きている。

今回の第4版のガイドラインの改訂では、本ガイドラインが、医師以外のメディカルスタッフに活用されている状況を鑑み、本書だけでラテックスアレルギーに対する理解と対応ができるように、アレルギーの基本とアナフィラキシー対応について充実させるとともに、最新の知見に更新した。

本ガイドラインは、メディカルスタッフの中でも看護師が、ラテックスアレルギー患者をどのように受け入れたらよいのかを困った場合に、対応の指針として使用されることが多い。ガイドラインが辞書的に幅広く記載されていることを踏まえて、目的に合った項目を調べるのに参考となるように表1-1を作成した。利用していただけると幸いである。

表1 - 1  ラテックスアレルギーナビ